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Flutter フラッター(揺れる)

アメリカ映画 (2014)

ジョナサンが罹っている病気は、狭隅角(きょうぐうかく)緑内障、別名、閉塞隅角(へいそくぐうかく)緑内障。“隅角”、すなわち、虹彩と角膜が交わる部分の交差角が30度未満の場合、狭隅角・閉塞隅角と言い、この “隅角” には房水〔眼の中を循環する水〕の出口があり、光彩の動きで出口が塞がれると、眼圧が上昇し〔老人に多い正常眼圧緑内障とは根本的に違う〕、頭痛、眼痛、充血を起こし〔映画の中で、すべてジョナサンに起きる〕、放置すれば失明に至る。その薬として、1998年にジョージア医科大学の Keith Greenらが発表した論文には、「大麻吸引は使用者の60%から65%で眼圧(IOP)の低下を引き起こす」「眼圧を制御するために必要な割合で継続して使用すると、実質的な全身毒性につながる」「効果は3~4時間。効果を絶やさないためには1日8~10回の吸引が必要」と書かれている。映画の中では、吸引は1回だけで、あとは、母ジョリンが焼くケーキの中に砕いた乾燥大麻を混ぜて食べさせている。この映画は2014年4月4日にダラス国際映画祭で上映されたが、その年の6月17日、アメリカ眼科学会(AAO)は、緑内障の治療に大麻や大麻を使用せず、眼科医の診断による適切な治療を受けさせるべきという勧告を発表した。映画の中で、ジョナサンを診た医師は、「麻薬の使用は危険過ぎるので、私は引き続き “縮瞳薬”〔眼圧を低くコントロールする薬〕を処方し、さらに、“経口阻害剤”〔炭酸脱水酵素阻害薬のこと。劇的な眼圧下降作用はあるが副作用も強い〕も追加処方します」と 母ジョリンに告げるが、ジョリンは 処方箋をくずかごに捨てる。彼女は、薬としての大麻しか信じていない。これが映画の主軸となっている。大麻を多用するので、ジョナサンが異常行動を取り、それがジョリンを危機な状態へと導く。

テキサス州のバストロップ郡の片田舎に住むジョリンとジョナサンの母子の物語。ジョリンは、父〔正しくは、夫の父〕の家の隣のバラックに住んでいるが、家賃を3ヶ月滞納し、電気、水道が止められ、路端でインコを売って細々と暮らしている。父は、海軍の上等兵曹を退職して倹(つま)しい暮らしをしていて援助できないし、気難しくて高飛車な妻の尻に敷かれている。それでも、ジョリンは先天性の狭隅角緑内障に苦しむ〔学校の黒板も見えない〕9歳のジョナサンを、自宅で学習させながら、水耕栽培した大麻を混ぜて作るケーキを食べさせ続けることで、眼圧上昇による頭痛から解放する努力も怠らない。大麻による眼圧低下の効果は3-4時間しか続かないため、継続的に大麻を与え続ける必要がある。そのためジョナサンは、水の中にいる怪物と戦うオモチャの道具を手作りし、空想の中で戦うことが大好きになっている。父は、カントリーミュージシャンになりたくて、妻子を置いて各地を旅するが、全く評価されないため、仕送りすらできずにいる。もう1人の重要な登場人物はカーティスという大麻中毒の優しいヒッピー。ジョリンはカーティスに余った大麻をあげるが対価は受け取らず、カーティスは代わりにインコを買って、後で放してやる。そんなジョリンの所に、ある日、姉がやってきて、絶対ビンゴに勝てるからと言い、なけなしのジョリンの90ドルで、各45枚のビンゴを買わせる〔言い出しっぺの自分は一銭も払わない〕。そして、見事に全額ドブに捨てるが、問題は、その間、一人残されたジョナサンが、ペットの大豚と一緒に家じゅうを破壊し始めたこと。その中には、水耕栽培の大麻も含まれ、貴重な薬は全滅。その後、外に出て行ったジョナサンと豚は、祖父の家に行き、意地悪祖母が大事に育てていたトマト畑を目茶目茶にする。財産をすべて失って帰宅したジョリンは、大麻の全滅に衝撃を受け、さらに翌日、保安官がやって来て祖母からの250ドルの請求書を渡す。それでも飽き足らず、祖母は、CPS(児童保護サービス)の職員を派遣させ、ジョナサンがちゃんとした世話を受けているかどうかチェックさせようとする。それに対し、ジョリンは調査を断固拒否して追い払う。しかし、こうなった以上、裁判所命令での調査が入ることになるので、ジョリンは家を出て行くことに決め、邪魔な大豚は食肉として祖父に提供し、当座の大麻を確保しようとカーティスに頼み込み、売人から買おうとするが、それが警察の罠で、カーティスは逮捕され、ジョリンは辛くも逃げ切る。そして、ジョナサンの希望を叶えるため、結婚指輪をはじめ残った物をすべて質屋で売り払うと、そのお金で行ける唯一の海岸、州内のガルベストンへの片道バス切符を買い、2人で新天地を目指す。

ジョナサン役のJohnathan Huth Jr.については、何も分からない。名前の発音も、Huthはドイツの名前なのでフートと発音するのか、英語流にハーフと発音するのかすら分からない。映画初出演で準主役。他に出演作はない。眼振のためいつも瞳が動いているが、いったいどうやって撮影したのだろう。

あらすじ

映画の冒頭、ジョリンが両開きのガラスのドア〔内側にレースカーテンがあって、中は見えない〕を開けると、小さな部屋には壁にアルミ箔が貼ってあり、天井からは特殊な光源で照らされ、中は真昼以上に明るい。その中央にある四角いプラスチックの大きなバケットの中には、4つの鉢が置いてあり、大麻の木が育てられている。ジョリンは、そこに定常的に水を供給するための発砲スチロールの箱の中の水のpHを測定している(1枚目の写真)〔pH6.2~6.7が最適と書いてあった〕。そこに、ジョナサンの声が重なる。「こっちに来るぞ、船長。そいつには、バスケットボールより大きな目がある。真っ黒な水の中でも、自由に見れるんだ。ママのインコみたいな嘴(くちばし)があるけど、1000倍も大きくて、君を半分にちょん切ることもできるし、8本の脚でシロナガスクジラの頭をもぎ取ると、触手で嘴まで運ぶんだ」。彼は、池に浮いたボートに乗っている(2枚目の写真、矢印は海神ネプチューンの三叉槍を模して作ったもの)。「もし、僕が捉まったら一巻の終わりだ。もし、君が捉まったら、ベーコン・サンドイッチだ」。ここで、“船長” の正体が映される。ボートの前方に乗っていたのは、ジョナサンが4年前に父からもらった子豚の成れの果ての巨大豚。その後、ジョナサンは、「巨大海獣に襲われた」と言ってボートを揺らすと、「水中に逃げよう、ウィウィー」と言い、次のシーンでは両者とも池の中を泳いでいる(3枚目の写真、右下にジョナサン役のJohnathan Huth Jr.の名前が表示されている)。
  
  
  

ジョリンが缶の蓋を回して開けると、中には乾燥大麻が入っている。映像は、ギターの弾き語りをしている冴えない男性と、大麻入りのケーキ作りと、水中のジョナサンが断片的かつ交互に映る。そのうちケーキついて見ると、まず、フライパンで乾燥大麻を溶かしたバターで炒める(1枚目の写真、矢印は大麻)。次に、鍋に、(小麦粉、砂糖、ナッツ)、ココアパウダー、卵を入れ、その上からマンモスざるで濾した大麻入りバターを注ぎ、よく混ぜ、それをアルミの四角いケーキ型に入れて平らにし、オーブンに入れて焼く。焼き上がったケーキを正方形の小片に切り、フライ返しで1回分の1切れを取り出す(2枚目の写真)〔これは、アメリカで生まれたブラウニーというケーキ〕。そこに、ジョナサンが帰ってくる。「頼んだのは罠を調べに行くことで、泳ぎに行くことじゃないわ」と母が言うと、「僕たち、魚釣りに行ったんだ」と嘘を付く。「水の中で 魚釣りはできないわ。『僕たち』って誰となの?」。「僕とウィウィー」。「あの豚と絡むのはダメよ。授業の準備をなさい」。そう言うと、母は、フライ返しに乗ったケーキを差し出す。ジョナサンは、ケーキをつかむと、そのまま行きかけるが、母が、「薬を食べて」と言うと、口に全部放り込んで(3枚目の写真)、中に押し込み、噛んで見せる。このあと、近くに住むジョリンの父の元に、息子のディヴィッド〔ジョリンの夫〕からコレクトコールの電話が入る。ジョリンの家には固定電話もなく、携帯電話は使用不可になっている。ジョリンの夫は、お金がなくて長距離電話代を払えない。ディヴィッドは、「やあ、パパ、ジョーいる?」と訊く。父が、いないので、伝言はあるかと訊くと、手紙を書くからいいと答え、一方的に切る。
  
  
  

2人乗り自転車のところまで行くと、母はジョナサンに、「今日は、何が勉強したい?」と訊く。「海獣」。「そんな科目はないわ。算数をやりましょ」。「いいよ」。自転車に漕ぎながら、ジョナサンは 「僕は9歳、ママは27歳」と言う。僕が産まれた時、ママは18歳だったんだ」〔これが ”算数” の授業〕。「今日は、算数、もうやめましょ」(1枚目の写真)。道路沿いに自転車をとめた母は、2つの籠に計4羽のインコを入れ、「インコ、売ります」の段ボール看板を立てる。「科学は勉強しないの? 恐竜ならいいわよ」。「先史時代の海獣は?」。「実在するものならいいわ」。ジョナサンは、自分がスケッチブックに描いた絵を見せる。プレデターX。マーベル・コミックスの漫画のプレデターXではなく、Pliosaurus funkeiの正しい絵。その後に母に見せたのがムカシオオホホジロザメ(Carcharodon megalodon)。科学の内容にはなっているが、かなり恣意的。これでも、学校に通わず、自宅学習をしているジョナサンにとっては “学校の授業” だ。その次の母の “教育” には、違和感を覚える部分がある。恐竜の絶滅に関して 「小惑星が地球のすべてを破壊できたとは思っていない。原爆でもできなかった。第二次大戦で、私たちは日本に数個の原爆を落としたけど、何も起きなかった。90年代から、ずっと日本製のラジオを買い続けている」と話す〔これが、アメリカ人の原爆に対する認識??〕。そこに、バギーカーに乗ったヒッピー風のカーティスがやって来る(2枚目の写真)。ジョリンは、「黄色のインコが欲しいんでしょ?」と訊き、カーティスは、「ああ、鳥の餌もよろしく」と答える。「でも、インコを買わなくてもいいのよ」。「だけど、よく言うじゃないか〔you know what they say〕、郷に入りては郷に従えって〔When in Rome, do as Romans do〕」。ジョリンは、栽培した大麻を1袋カーティスに渡す(3枚目の写真)。「ありがとよ、ドック。FDA(アメリカ食品医薬品局)は賛成しないだろうな」。ジョリンは、黄色のインコをカーティスの持って来た鳥籠に入れる。カーティスは、インコ代を渡す。カーティスが、さらに、大麻のお金を渡そうとすると、ジョリンは 「薬のお金は受け取らない」と断る。カーティスは、途中でバギーカーを停めると、買ったインコを逃がしてやる(4枚目の写真、矢印はインコ)。
  
  
  
  

2人が自宅に戻ると、そこにジョリンの父が待っていた。父の目的は、①話がしたかたのと、②夕食を一緒にという誘い。父の家はすぐ近くなので、ジョリンはジョナサンに義母〔正しくは、夫の父の妻/ジョナサンにとっては祖母〕の手助けに行かせる。ジョナサンがいなくなると、父はディヴィッド〔ジョリンの夫〕から電話があったことを伝える。以前の電話のシーンではなかったが、父はディヴィッドに、ジョリンの家の電気が(未払いで)供給停止になっていると打ち明けた。それに対するディヴィッドの返事は、祖父母の家に引っ越せというものだった(1枚目の写真、ジョリンの住んでいる場所が 如何に廃棄物置き場に近いような場所だということがよく分かる/中央にあるのはインコの籠)。その先で、ジョリンが小型発電機にガソリンを入れるシーンがある。そのメインの目的は大麻のためだが、他にも、薄暗いながら室内照明にも使っている。祖父は妻のリンダが 「事態が好転するまでジョナサンに一緒に住んで欲しい」と話したと言うが、ジョリンは 「リンダは、私には息子の世話ができないと思ってる」と、的を射た返事をして 申し出を断る〔リンダほど悪質な祖母は、映画にも滅多に登場しない〕。その頃、祖母の手伝いに行ったジョナサンは、手を見せろと言われ、泥を洗うよう命じられ、キッチンの流しに向かうと、洗面に行くよう指示される。手を洗った後のタオルの掛け方一つにも文句。食事が始まり、ジョナサンが 「お祖父ちゃん、海の怪物について話してくれる?」と頼み、祖父はずっと海軍にいたこともあって、面白 恐ろしく 長々と話してくれる(2・3枚目の写真)。話しが終わると、祖母は、「やっと終わったの? 食欲がまるきりなくなったわ」と顔をしかめる。居づらくなったジョナサンは、「失礼して いい〔Can I be excused〕?」と祖母に尋ねる。祖母は、言い方が悪いと、同じ言葉をそのまま返す。そこでジョナサンは「失礼して いいですか〔May I be excused〕?」と言い直し、祖母はむっつりした顔で、「いいわよ」と言う〔あるサイトに、面白い “違い” の解説があった。家で家族にお願いする場合は “Can I”、モールのドリンクショップでオーダーする場合は “Could I”、高級レストランでオーダーする場合は “May I”〕
  
  
  

家に戻った2人。夜、トイレに行ったジョナサンは 母の寝室に直行する。「どうしたの?」。「頭が痛いよ」。「目を見せて」(1枚目の写真)。母は、ジョナサンを横にならせ、大麻ブラウニーを取りに行く。そして、ベッドの上に胡坐(あぐら)を書いて座り、ジョナサンの頭を膝に乗せ、ブラウニーを渡す(2枚目の写真、矢印はブラウニー)。ジョナサンがブラウニーを噛みながら、「今夜は、すごく痛いんだ」と、頭痛のひどさを訴える。「頑張るのよ。噛み続けなさい」。ジョリンが歌を口ずさみ、大麻の効果もあり、ジョナサンは次第に眠っていく(3枚目の写真)。
  
  
  

このことがあり、ジョリンは父に頼み込み、翌日 ジョナサンを医者まで乗せてもらう〔田舎なので、病院までは車で行かないと無理〕。車の中で、ジョリンは収入がなく家賃を3ヶ月滞納していると話す。父は、「3ヶ月? 何てことだ。お前を助けたいことは山々だが、正直に言おう、退役給付金が減らされたから、ぎりぎりで余裕がないんだ」と、助けてやれないことを詫びる(1枚目の写真)。「ディヴィットは、いつ戻るって言ってた?」。「何も言わなかった」。病院で、ジョリンは、ジョナサンの頭痛がひどくなっていると話す(2枚目の写真)。医師は、「レーザー手術の次の最大の希望はtrabでした」と話す〔レーザー手術には、各種あるが、恐らくレーザー虹彩切開術であろう。TrabはTrabeculectomyの略で線維柱帯切除術という外科手術。眼圧下降には最も効果が期待されるが、これも “過去形” なので、実施したが効果がなかったのか?〕。そして、今後の方針を含め、「ジョナサン君は、一生薬を服用しないといけないでしょう。点眼薬は眼圧のコントロールに効いていますか?」と訊く。「目がかすむと文句を言います」。「でも、彼にとって必要なのです」。「アレルギー反応のあと、ジョナサンは点眼薬を嫌がるようになりました」。「縮瞳薬〔眼圧を低くコントロール〕は続けます。麻薬は危険過ぎます。経口阻害剤〔炭酸脱水酵素阻害薬/劇的な眼圧下降作用/比較的強い副作用〕を追加して、様子を見てみましょう」。こう話している最中も、ジョナサンは異常なほど首を動かし、じっとしていない(3枚目の写真)。「追加の処方で、ジョナサン君が疲れたり、不活発になったり、のろのろするかもしれませんが、その方が助かるでしょ」。こうした医師の話に不信感をつのらせたジョリンは、大麻だけに頼ることにし、処方箋をくずかごに捨てる。
  
  
  

3人は、一旦父の家に戻る。ジョナサンは外に遊びに行き、キッチンに2人で入って行ったものの、父は、ガーデニングをしている妻の手伝いをしに出て行き、ジョリンが一人とり残される。ジョリンはカウンターの上に置いてあったファイルを何気なく開けると、写真が数枚束になっていた。一番上がジョナサンの写真だったので、手に取って見てみると、2枚目には豚のウィウィー、そして、3枚目はジョリンの家のジョナサンの汚い部屋を撮影したものだった(1枚目の写真)〔2枚目と3枚目は、ジョリンの留守に、義母が勝手に家に入り込んで撮ったもの〕。ファイルに挟んであった手紙は、弁護士から2012年5月5日付けで義母に送られたもので、「リンダ様。第三者が子供の親権を取得するのは困難な手続きです。先日お話したように、あなたは責務放棄と不適切行動の証拠を提示する必要があります。あなたは、子供の母親が麻薬の使用に関与しているとの疑念を表明されました。その種の証拠は、あなたの義理の娘に対する主張に確固たる根拠を与えます。ご幸運を。そして、先に進む準備ができたらお知らせ下さい」(2枚目の写真)。そして、ノートには、義母がジョナサンを見て感じたこと、ジョナサンに直接訊いた内容などが書き綴ってある。最初の*印付きで下線のあった部分には、「ジョリンとディヴィッドがまた争っている」、2つ目の*印付き下線部は、「ディヴィッドがペットの豚を与えた」、3ヶ所目は 「電気が止められた!」、4ヶ所目:「ジョリンの携帯がつながらない!」、5ヶ所目:「ジョリンは、ジョナサンに間違った算数を教えている」、6ヶ所目:「豚がジョナサンの部屋で寝ている」、7ヶ所目:「ジョリンには、息子を養う余裕がない」(3枚目の写真)。その時、父と義母が歩いてくる音が聞こえたので、ジョリンはカウンター上の一式を元に戻す(4枚目の写真)。
  
  
  
  

その頃、ジョナサンは三叉槍を持って池に潜り、それが終わると、岸辺で魚釣り(1枚目の写真)。獲った魚を池に帰してやると、空想上の海獣が触手で魚をつかみ(2枚目の写真、矢印は魚)、口に放り込む。そこにジョリンがやってきて、「泳いだの? 行くわよ」と手を引く。「どこに行くの?」。「家よ」。「お祖母ちゃんの夕食、食べるんじゃないの?」。「いいこと、お祖母ちゃんの家には、二度と一人だけで行って欲しくないの。分かった?」。「どうして?」。「ママの命令。お祖母ちゃんは、あなたがいろんな物を壊しちゃうからカンカンなの」(3枚目の写真)。「そんなつまりじゃなかった」。「分かってる。あの家は ウソだらけ〔full of shit〕なの。もう行くのは止めにしましょ。今から、ママがあなたの世話をするわ。パパが戻るまでね」。母はさらに続ける。「今から、誰も家に入れちゃダメよ。誰一人。特に、お祖母ちゃんとお祖父ちゃんは」。ジョリンは、こうして、義母による卑劣な情報収集ができないようにする。
  
  
  

別の日、ジョナサンがベランダで腹筋運動をしている〔ジョリンが足を押さえている〕。そこに、姉のナタリーがやって来る。「あんたの携帯どうなったの?」。「遮断されただけ」。「ひどいわね」。そして、床に座ったままのジョナサンに、「アスリートみたいね」と声をかけ、ジョナサンは、「やあ、ナタリー伯母さん」と返事する(1枚目の写真)。ナタリーが、ジョリンに相談があると室内に入って行ったので、母は 「20分、体育の時間よ」とジョナサンに命じる。ジョナサンは、さっそく手製のバーベルで運動を始めるが(2枚目の写真)、すぐにプレートがシャフトから抜け落ちてしまう。ナタリーは、ジョリンを連れ出したいが、ジョリンは「ジョナサンを一人で残しておけない」と断る。姉は、「最悪何が起こるっての? 豚が家に入る? 前にもあったんでしょ?」。この言葉でジョリンはOKする。そこで、シャフトだけ上下しているジョナサンに向かって、「今夜、ママとナタリー伯母さんが出かけたら、いい子でいられる?」。「いいよ」。「ウィウィーを家の中に入れて欲しくないし、お祖父ちゃんの家にも行って欲しくないの」(3枚目の写真)。「OK」。「じゃあ、8時に迎えにくるわ」。
  
  
  

姉がジョリンを連れて行ったのはビンゴホール。姉は、なぜか黒髪のカツラを付けている。ジョリンは、「その彼、ホントに大丈夫なの?」と心配する。「心配ないって。損はしない。彼、コンピュータの天才なんだから」。ただ、ジョリンがなけなしの90ドルを全額出し〔滞納した家賃を稼ぐため〕、姉は一銭も出さない。そして、1枚1ドルなので、45枚ずつ持つ。姉と親しいように見えるコンピュータの達人は、ラッキーナンバーは6だと教えるが、それにどういう効能があるのかは分からない。一方、その頃、家では、母の「ウィウィーを家の中に入れて欲しくない」の言葉を完全に忘れたジョナサンが、何かの缶詰を開け、それを皿に全部入れ、キッチンの床に置いてウィウィーに食べさせる。「ママには言うなよ、ウィウィー」。次にジョナサンがしたことは、砂糖入れに計量カップを突っ込み、カップ一杯の砂糖を 仰向けになった口の中に8割ほど入れ、あとは吹き出したこと。そして、ジョナサンと豚が一緒になって居間をメチャメチャに。スタンドの傘を放り投げ、イスを倒し、豚に乗って遊び(1枚目の写真、矢印)、再び砂糖を口に流し込む(2枚目の写真)。その先が最悪。大麻を栽培している部屋に入って行くと、豚に鉢の1つを食べさせ、自分は別の鉢を取り、刈り込み鋏で枝を切る(3枚目の写真)。
  
  
  

そして集めた大麻の生の葉を、キッチンに持って行き、ミキサーにかけて粉砕(1枚目の写真、矢印)。そして、小麦粉やココアパウダーの混ぜ物の中に、ドロドロの大麻液をそのまま流し込む(2枚目の写真)。そこに卵や砂糖を入れただけでなく、各種スパイスや、ビンに入った茶色の液体、大量の薄黄色の液体、赤い刺激性の物質を加え〔映画の冒頭に出てきた “正しい作り方” とは全く違う〕、かき混ぜてから味を見てみる(3枚目の写真)。それをアルミの四角いケーキ型に入れて平らにし、オーブンに入れる。
  
  
  

一方、ビンゴホールでは、1人の男性が「ビンゴ!」と叫ぶ。つまり、2人は90ドルを失ったことになる。姉は、自分がお金を出したわけではないので、一言、ジョリンに 「ごめん」と言っただけ。ただ、コンピュータおたくのハズの男が後ろを通りかかると、立ち上がって、話が違うと文句を言う。男は 「あんた、俺がホントにビンゴゲームを操作できると思ったんか? そんなにバカなのか?」と開き直る。その言葉に怒った姉は男に殴りかかろうとして、警備員に取り押さえられる(1枚目の写真)。一方のジョナサン。最悪の上に、さらに最悪の上塗り。祖母が大事にしている家庭菜園に豚を連れて行くと〔これで、母の「お祖父ちゃんの家にも行って欲しくない」も破った〕、実ったトマトをちぎってブタに食べさせたり(2枚目の写真、矢印はトマト)、左手に持ったトマトを 右手で叩いて潰したり、単に取っては投げたり、果ては、菜園全体をメチャメチャにする。同じ頃、カフェに場所を移したジョリンと姉。2人は口論となり、最後は、ジョリンが姉の黒髪のカツラをスポンと取ると(3枚目の写真、矢印)、姉のコーヒーに浸けてから投げ付け、さっさとカフェを出て行く。再度、祖母の菜園。あまり音が大きいので、泥棒かと思った祖父がライフル銃を持って出てくる。そして、空に向けて一発発射すると、柵を壊してジョナサンと豚が姿を見せる(4枚目の写真、矢印は豚)。1人と1匹が逃げ去った後の惨状を見て、祖父は、事を穏便に済ますため 「朝になったら、ジョナサンと話す」と言うが、祖母は 「ダメ、今度ばかりは任しておけない」と断る。「何をする気だ?」。「あなたは、娘に勝手気ままにさせ、今度は、その息子に同じことをさせた」。「お前もやってみたらどうだ? 曲がりなりにも家族なんだぞ」。「私が対処するわ」。
  
  
  
  

帰宅したジョリンは、まず散乱状態の居間に驚かされる(1枚目の写真、矢印は豚)。「ジョナサン!」と叫ぶ。キッチンでは、オーブンから煙が出ている。ジョナサンが “メチャメチャ・ケーキ” を放り込んだまま出かけたからだ。黒焦げの中身を見たジョリンは、再び 「ジョナサン!」と叫ぶ。そして、開けっ放しの大麻の部屋の前まで行き、絶句。ジョナサンの病気のために大切に育ててきた大麻は、何一つ残っていなかった(2枚目の写真)。ここで、三度目の「ジョナサン!」。ジョリンはジョナサンの部屋に行き、「何てことしたの!!」と怒鳴りつける。大事な植物をメチャメチャにして!!」。「ブラウニーが作りたかったんだ」(3枚目の写真)。「バカじゃないの!! なんであんなことしたの?!! あんたのお薬なのよ!!」。「知らなかった」。「元に戻すには何ヶ月もかかるわ!!」。そして、ドアを思い切りバタンと閉める。
  
  
  

キッチンに戻ったジョリンは、少し冷静になると(1枚目の写真)、もう一度ジョナサンの部屋に行き、「入ってもいい?」と訊く。ジョナサンが頷くと、彼の横に座り、「どなって悪かったわ」と謝る(2枚目の写真)。「ママ、ごめんね。なぜ あんなことしたか分かんないんだ」〔大麻のせい〕。「あなたが子供だからよ」。「パパがいなくて寂しい」。「ママもよ」。「僕を 絶対に一人にしないでね」。「絶対よ。愛してる。いつも、ずっと愛してる。何があっても。あなたが何になろうと、大きくなって悪いことをしたとしても。神様以上にあなたを愛してる」(3枚目の写真)〔究極の愛〕。そして、ジョナサンを愛しく抱きしめる。
  
  
  

翌日、早朝、玄関ドアがノックされる。ジョリンが出て行くと、そこにいたのは保安官。保安官は、外に出てくれないかと頼むが、ジョリンは「ここでいいわ」と断る。「豚がどこにいるか知る必要がある」。これは、ジョリンにとって 想定外の発言だった。「なぜ訊くの?」。「あんたんとこの隣人が、今朝、告発したんだ」。「隣人? 私の夫の両親じゃないの」。「分かってるよ。だがな、俺は、あんたのペット豚がやらかした不法侵入と破壊行為に対する支払命令書を交付しにゃならんのだ」。そう言うと、一通の書類を渡す。その時、ジョナサンが木のベランダの隙間からパレットナイフを差し込んで、保安官のブーツに豚の好物をなすりつける。「豚がいまどこにいるか知りたい」。「そこにいるじゃない」。豚は、せっせとブーツに付いた好物を舐めていた(1枚目の写真)。怒った保安官は、きちんと管理しないと、次は押収して安楽死させると宣告し、慌てて去っていく。頭に来たジョリンは、すぐに祖父母の家に行き、父に入れてもらうと、義母が使っていた電気掃除機のコンセントを引き抜く。そして、「リンダ、警察から250ドルの違反切符をもらったわ。幸せ?」と、強い調子で訊く。「あなたに違反切符を渡したくなかった」。「じゃあ、なぜ警察なんかに通報したの?」。「意思表示をしたかったの」。「私、今、ここにいる。したらいいじゃないの!」(2枚目の写真)。義母は、息子を管理下に置き、盗みをしないように教えるべきだと主張する。それに対しジョリンは、「あなたが息子〔ディヴィッドのこと〕にしたように? 家族を見捨てて逃げるような人間にしろと? 私はね、息子に 人間らしくなるよう教えてるわ!」。ここで、父が仲介に入り、外に連れて行く。ジョリンは、「あの人はね、高校を中退した私がジョナサンに自宅学習をさせてるのが気に入らない。だけど、あの子 黒板も見えないのよ!」と訴える。さらに、「あの人、どうでもいい物を壊したってジョナサンに文句ばかり言うくせに、あの子の目が見えなくなるってことには目を背けてる!」とも。父は、それに対し、ジョナサンと豚が昨夜義母の菜園を破壊し尽したことを冷静に話し、「家賃や電気代を払う余裕がないのなら、300ポンド〔136キロ〕の厄介物を飼う余裕なんかないハズだ」と正論を述べる(3枚目の写真)。「ディヴィッドからもらった豚よ。あの子 好きなの」。「成長した豚はペットじゃない」。
  
  
  

ジョリンにとって、目下の最緊急課題はジョナサンのための大麻の確保。そこで、顔見知りのカーティスに相談しようと、息子を連れて廃棄物置き場の真ん中に建っている小屋を訪れる。2人は、中に入れてもらう。ジョナサンは、中に置いてあった塩水の水槽に飛びつくが、中には何も入っていない。「魚はどこ?」(1枚目の写真)。「タコが1匹いるが、1日中隠れてるんだ」。カーティスは、他にも、ヘビやクモやサソリも1匹ずつ飼っている。しかし、ジョナサンが興味のあるのはタコだけ。カーティスは、「音楽は好きか?」と訊き、友人からもらったCDをかける。「好きか?」。「好きじゃない。愛してる!」。このジョナサンの言葉にカーティスは大喜び。「お前にやるよ」。「まず聴いてていい?」(2枚目の写真)。その間に、ジョリンは2人だけで話そうと、カーティスを外に誘う。ジョリンは、大麻が全部なくなったことを話し、カーティスはショックを受ける。「1週間分しか残ってない」。「ウチにあるのは2・3日分だけ」。「普通の薬はどうなんだ?」。「あの子には、くだらない医薬品より、ハイドロ〔hydro/水耕栽培の大麻〕の方がよく効くのよ」。「俺が知ってるのは ロニーって奴だけだな。4分の1ポンド〔113グラム〕しか売ってくれん」。「そんなお金ない」。「ここら辺のガラクタでも売るか。テキサスなんかに住んでるからな。西海岸なら医者がハイドロを出してくれるんだが」(3枚目の写真)〔1996年、カリフォリニア州で医療用大麻の使用が認められ、2020年の段階で半数以上の州で大麻が認められるに至った/テキサス州は映画製作の翌年の2015年から、患者登録すれば非精神活性化合物のCBD(カンナビジオール)のみ許可されるようになった⇒これなら、大麻に含まれるTHC(テトラヒドロカンナビノール)による幻覚でジョナサンが苦しむこともなくなる〕
  
  
  

2人が外で話し合っている時にジョナサンがしたこと。フォークの歯のうち1本を折り、残りのうち2本を曲げ、三叉槍を作る(1枚目の写真)。そして、それをタコのいる水槽に突っ込むと、今までと同じような水中場面になるが、ここは池ではなく水槽なので、あくまでジョナサンの幻想、もしくは、空想(2枚目の写真)。ここでアニメに変わり、ジョナサンが大ダコと戦う(3枚目の写真)。そして、頭だけずぶ濡れになったジョナサンは、曲げたフォークで突き刺したタコを水槽から取り出す(4枚目の写真)。ジョナサンが、この時点でタコをどうしたのかは分からないが、2人が戻って来た時、捕獲したタコはどこにもない。
  
  
  
  

翌朝、お腹が空いたジョナサンはキッチンを探してみるが、食べ物はどこにもない。すると、そこに母がやってきて、「何してるの?」と訊く。「食べ物を探してる」(1枚目の写真)。「遊んでらっしゃい。何か作るわ」。そう言って鍋を持ってシンクの水栓の下に入れ、蛇口をひねるが水が出て来ない。おかしいと思って外に出てみると、玄関ドアのガラスに、「水道供給停止のお知らせ」という紙が貼ってある。ジョナサンがトイレに入ろうとしたのを見た母は飛んで行き、「もうトイレを使っちゃダメ。お祖父ちゃんみたいに、外でやりなさい」と言って、トイレから追い出す。そして、キッチンから鍋を持って来ると、便フタの上に置き、タンクのフタを取り、中にビンを入れてタンク内に残った貴重な水の一部を鍋に入れる(2枚目の写真、矢印)。母はオートミールを作ってジョナサンの前の皿に入れるが、一口食べたジョナサンは、「砂糖、入れた?」と訊く。「砂糖はないわ。ゼリービーンズを入れたら?」〔砂糖は、2日前、ジョナサンが使い尽くした〕。「キモいよ。なぜ お祖父ちゃんちに行けないの?」。「ママがダメと言ったから」。ジョナサンは、「もう食べたくない」と言い、皿をじっと睨む(3枚目の写真)。
  
  
  

2人は、いつものようにインコを売りに出かける。すると、1台のステーションワゴンが停まり、母親とジョナサンくらいの娘が降りて来る。娘がインコを見て停まってくれと頼んだからなのだが、母親には 買う気などない。「子犬もカメも世話しなかったじゃない」。娘は、「子犬は床にウンチするし、カメはトロい。インコがいい」と反論。さらに、籠の中にはない青のインコが欲しいと言い出す。ジョリンが家に戻れば青いインコがいると言うと、娘は、母親が何と言おうと受け付けず、望みが叶うまで悲鳴を上げ続ける。母親は仕方なく買ってやることにし、2人はステーションワゴンに同乗して青いインコを取りに家に向かう。車内で、娘が 「どうして目がこんな風に動くの」と指をフラフラさせて訊く。ジョナサンは 「これ眼振で、僕 緑内障なんだ」と答える。家に着くと、ジョリンは車に乗せてあった2つの鳥籠を持って先導し、母親をテラスの大きな籠まで連れて行く。一方、ジョナサンは敷地内にある “昔プールだった場所” に飛び降りると、使えなくなった携帯を取り上げると、娘に向かって 「ジョナサン船長と一等航海士キム〔娘の名〕が海獣を探してる」と言うと(2枚目の写真)、キムは 「一等航海士なんかイヤ、人魚がいい」と反対。「人魚なんかつまんないよ。戦えないだろ」。「構わないわ。人魚がいいの」。「じゃあ、中に入れよ。人魚になりたいんなら、海に入らないと」。「こんなトコ、入らない」〔中はゴミだらけ〕。ジョナサンは落ちていた大きなバネをキムの足元に置くと、「ウミヘビだから気を付けろ」と言うが、「ただの古いバネじゃないの」とバカにされただけ〔空想遊びしかできない経済環境にあるジョナサンと、何でも買ってもらえるキムとの差〕。そのあと、ジョリンが映画の中で唯一悪いことをする。キムの母親が運転席に残していった最新式のスマホを盗んだのだ(3枚目の写真)〔ただ、このような場所に置いてあれば、乗車する時、なくなったことに気付くと思うのだが…?〕
  
  
  

ジョナサンは、母の「お祖父ちゃんの家にも行って欲しくない」という指示を破り、事もあろうに菜園にいる祖母に近づいて行き、「やあ、お祖母ちゃん」と声をかける〔ジョナサンのいい加減さに、ジョリンに同情したくなる〕。カモが来たと喜んだ祖母は、「庭を直すの手伝いに来たの?」と訊く。「ううん」。「どうして、『ううん』なの?」。「ママが、お祖母ちゃんの家や庭に入っちゃダメって言ったから」(1枚目の写真)。「なぜ、そんなこと言うの?」。「さあ。ホースから水 飲んでいい?」。「もちろん」。「でも、ママに言わないでね」。「なぜ?」。「水道が、今日 止められちゃったから」。ジョナサンはホースから水を飲むが(2枚目の写真)、これで、祖母は強硬手段が取れるとウハウハだ。その頃、ジョリンは、典型的なアメリカ式の郵便受けまで行き、中に入っていた手紙に目をみはる(3枚目の写真)。それは、久し振りに来た夫からの便りだった。その内容を簡単に紹介する前に、この封筒の宛先がはっきりと映る。そこには、「234 Tuck St., Cedar Creek」と書かれている。これだけはっきり書くのなら、そこでロケしているのかと思い、その住所でGoogle検索すると、4枚目の写真の場所が現われた。郵便受けの形は似ているが、道路の形状は違うように見える。さて、手紙の内容だが、①やっと手紙を出した。全然出さないよりは、たまにでも出した方がいいと思って、②今 テネシー州のメンフィスにいる、そのモーテルのベッドに1匹のゴキブリがいて、昔、テキサス州の海岸のカルベストンの町に2人で行った楽しい時のことを思い出した、③君が欲しい。君がいなくて寂しい、④ショーに少しは人が入り、僅かのお金が入ったので同封のものを送る、というようなもの。中に入っていたのは、スクラッチ式の宝くじが1枚。ジョリンが削ると200ドル〔2万円強〕が当たっていた。喜び勇んで現金と引き換えようとすると、テネシー州の宝くじだから、テネシー州まで行かないと換金できないと断られる。本当に役立たずの夫だ。
  
  
  
  

翌朝、黒人の中年女性が玄関ドアをノックする。それに応えてジョナサンが出て行く。「君、ジョナサン?」。「うん。誰なの?」。「ゲイルよ。話してもいい? 幾つか質問がしたいの。お祖母ちゃんのお友だちよ」。この “最も警戒すべき” 状況にジョナサンは気付かない。「OK」と言ってしまう。「ママはどこ?」。「寝てるよ」。「朝食はとった?」。「ううん。でもママが起きたら、多分オートミールになるんだ」と、嫌そうな顔をする。「オートミール 嫌いなのね?」。「嫌い」。「ペットの豚がいるって聞いたけど」。「うん、ウィウィー」。「ウィウィーは、あなたの部屋で寝るんだそうね」。「時々。でも、ママは家に入れるの嫌うんだ」(1枚目の写真)。「あなたの部屋、見てもいい?」。ジョナサンは ちょっと考えてOKする〔母から 「誰も家に入れちゃダメよ。誰一人」と言われたことを完全に忘れている〕。ゲイルは、あちこち見ながらドアから中に入る(2枚目の写真)。その途端、「あんた誰なの?」という声がする。ジョリンが拳銃を向けているのが映る。「児童保護サービスのゲイルです」。ジョリンは 「彼女から離れなさい」とジョナサンに命令する。ジョナサンはドアの影に隠れるが、少しは反省したのだろうか? ゲイル:「拳銃を向けないで下さい」。「私の家で何してるの?」。「私の仕事です。なぜ そう怒るのです?」。「令状はあるの?」。「まだです」。「なら、この家から出ておいき!!」(3枚目の写真)。ゲイルは、次に来る時は、裁判所の令状を持ち、警官を同行すると警告するが、ジョリンは 「息子に近づいたら承知しないから」と言って、バタンとトアを閉める。そして、散漫で不注意なジョナサンに対しては、「あの女と二度と話して欲しくない」と言うが、彼が100%理解したとは思えない。
  
  
  

ジョナサンは家を抜け出し、空想の世界に耽(ふけ)る。珍しく、彼の独白が入る。「可哀想な子供のパパがいなくなってから、レビヤタン〔旧約聖書に登場する巨大な海獣〕が、その子の家を海獣で襲わせるようになった」。ジョナサンは、そうした空想の元で作り上げた “武器” を、野原に放置されたソファの中から取り出す(1枚目の写真)。「カニ海獣が最初にやってきた」(2枚目の写真)。ジョナサンは、ソファから別の投擲用の武器を取り出す。「次にやって来たのは、千の目を持ったデブ海獣」(3枚目の写真)。ジョナサンが投げつけた爆弾で、海獣は爆発して消える。「レビヤタンが、いくら海獣を送り込んでも、その子は、お母さんを守るんだ」。この寓話で、レビヤタン≒祖母リンダを彷彿とさせる。ただし、ジョナサンは、祖母に利用されっ放しの “腑抜け” でしかないが。
  
  
  

ひたすら強く、息子を “リンダ・レビヤタン” から守ることに必死なジョリンは、ゲイルの闖入を受けて、すぐに祖父に会いに行く。ドアに “すべての元凶” である祖母が現われても、「マークを探してる」と言っただけで、CPSに提訴したことに対して抗議すらしない。憎たらしい祖母など “肉親” だとは思っていないので、存在を否定し、怒りを直接ぶつけることもしない。その代わり、小屋で作業中の父に会うと、「なぜ、CPSを私に寄こしたの?」と責める。「それについてケンカしたんだ」。「今朝、家に来たのよ」。「悪いな、ジョリン。やったのは わしじゃない、リンダだ。わしは、お前さんがとってもいい母親だと思っとる。リンダは、あいつが正しいと思ったことをやろうとしたんだ」。そして、父は、小屋の棚の一番上に “細々と” 飾ってある軍の思い出の品を指差す(1枚目の写真、矢印)〔その肩章から、父が海軍の上等兵曹だったことが分かる〕。「あれは、わしが最も大切にしとる私物なんだが、リンダの小さな陶器の飾り物〔knickknacks, trinkets:安物というニュアンスがある〕と雰囲気が合わんとかで、こんな汚い小屋に置くことになった。人生では、譲れるところは譲らないといかん時もあるんだ」。この、“敗軍の将” のような言葉に、ジョリンは思わず笑ってしまう(2枚目の写真)。でも、すぐ、「あなたと結婚できて、リンダってホントに幸せ者ね」と父に同情する。その後も 長い会話は続くが、最後の父の言葉は、「今後、お前さんが何をしようと、わしはあんたを愛しとる」で、ディヴィッドの父の、“バカ息子の嫁” に対する “詫び” とも取れる暖かい想いにほんわかさせられる。ジョリンは、これまで何もしてこなかった父に、冷蔵庫一杯の肉をプレゼントすると言い〔ペットのウィウィーを処分することを決めた〕、①今夜9時に来て、②ジョナサンには内緒に、と頼む。
  
  

ジョナサンがレビヤタンと戦って遊んでいるところに母がやってきて、一緒にソファに座らせる。そして、「一緒に旅行しない?」と笑顔で訊く(1枚目の写真)〔CPSが召喚状を持ってやってくる前に逃げ出さないといけない〕。「どこに行くの?」。「どこでも、好きなトコ」。「海に行ける?」。「やってみるわ」。「いつ、出かけるの?」。「明日。だけど、約束して欲しいの」。「何を?」(2枚目の写真)。「誰にも言っちゃダメ。OK?」。「OK」。「約束する?」。「約束する」。「ウィウィーはどうなるの?」。「お祖父ちゃんに世話を頼むわ」。母が一時去った後、ジョナサンは、“サメ豚” のウィウィー〔背中に アルミ箔で作ったサメの背びれを付けている〕と一緒に レビヤタン退治に出かける(3枚目の写真)〔ネプチューンのポーズ〕。「5マイル泳ぎ、お腹が空いてヘトヘトになったあと、長い手が現われてウィウィーをつかみ上げた」(4枚目の写真)。少年が腕に飛びかかり、三叉槍を突き刺すと、レビヤタンは痛くてウィウィーを離す。しかし、触手で少年を捕まえてぐるぐる巻きにし、触手の先端を少年の背中に刺した時、野原に気絶して倒れていたジョナサンを母が起こす。
  
  
  
  

ジョナサンの目は真っ赤に腫れていて(1枚目の写真)、「目が痛い」と訴える。よりによって旅行の前日なので、ジョリンは、すぐジョナサンを連れてカーティスの小屋に行く。そして、カーティスに頼んで、大麻の蒸気吸入器を使わせてもらう。発生した大麻の蒸気を一旦ジョリンが口に入れ(2枚目の写真)、それをジョナサンの開けた口に吹き込む(3枚目の写真)〔どうして直接吸引させないのかは不明だが、カーティスが「9歳の子にさせるのか?」と訊いたので、大麻入りブラウニーに比べてかなり強烈なのかもしれない〕。母はもう一度 吸引、吹込みを行い、後は、ジョナサンを膝に寝かせて(4枚目の写真)、“子守歌” を聴かせて眠らせる。カーティスは、ジョリンの “母としての優しさ” に感動する。
  
  
  
  

眠っているジョナサンを小屋の中に残し、2人は外に出る。ジョリンは、盗んだスマホと、夫が送って来た宝くじをカーティスに渡し(1枚目の写真、矢印)、大麻の入手を依頼する。ジョリンの優しさを見た後なので、「ジョナサンのために」というジョリンの言葉には説得力がある。カーティスは、もらったスマホで、唯一人知っている売人のロニーに電話をかけ、4人の1ポンドの最上級のハイドロを売ってくれるよう頼む。カーティスはジョリンに運転を依頼する。理由は、2回DWI〔薬物服用後の運転〕で捕まっていて、3回目は刑務所行きだから。カーティスが自慢する車は、1986年製の日産フェアレディ300ZR。V6、後輪駆動、170馬力、新車だった時は3万ドルと話すが、映画の作成時点では、間もなく30歳を迎えるクラシックカーだ。ジョリンに、「今なら、幾らするの?」と訊かれても、「知るか。Tバールーフなんだぞ」と愛着は変わらない。ジョリンが運転する車は、児童公園に到着。回転式の遊具に1人の男が座っている。カーティスは 「すぐ戻る」と言って車を降り、男の方に向かう。ロニーは、カーティスに遊具を回転させるよう頼む。遊具がかなりの速度で回転し始めると、ロニーはカーティスに 飛び乗るように命じる。そして、ロニーが右手を上げる(2枚目の写真)〔おとり捜査の合図〕。カーティスは気分が悪くなって飛び降りて回転を止める。ロニーは、大麻の袋を渡しながら、「悪いな、カーティス。時々、犬に骨を投げてやらないと、追いかけられちまうんだ」と話す。何のことか分からず、カーティスが車に向かうと、すぐにパトカーのサイレンの音が聞こえる。カーティスは大麻を捨てて車に向かって走るが、“どうしても捕まっては困る” ジョリンは、ドアに手をかけたカーティスを振り切って車を発進させる(3枚目の写真)。ジョリンは必死に逃げ、幸い、追っ手のパトカーが盛り土に乗り上げたため(4枚目の写真)、そのまま逃げ切ることができた。
  
  
  
  

小屋の中では、目を覚ましたジョナサンが、かつて自分がフォークで突き刺したタコが干物になっているのを見つける(1枚目の写真)。シーンは、ディヴィッドがギターの弾き語りをしている場面に。力唱を終えても拍手は起こらない。カメラが変わると、そこはただのバーで、2人だけいる客も、女性バーテンダーも、歌には全くの無関心(2枚目の写真)。これで、ディヴィッドは、自分の人生の侘しさを痛感する。必死でカーティスの家まで辿り着いたジョリンは、窓を叩き、中に無事ジョナサンがいるのを見てホッとする(3枚目の写真)。
  
  
  

一刻の猶予もできないので、ジョリンは小屋の中を急いで捜し回り、一番目に付きやすい場所に隠してあった大麻の袋を取ると(1枚目の写真、矢印)、そこに、カーティスに渡したスマホと宝くじを代わりに入れる。しかし、考え直し、「ごめんね、カーティス」と言うと、スマホだけ頂戴する〔宝くじは、もらった直後にカーティスがズボンのポケットに入れたので、ジョリンが持っているハズがない。スマホは、カーティスが車に残していったのだろうか?〕。そして、急いで小屋を出て、2人乗り自転車で家に向かう。途中でスマホに電話がかかってくる。家に辿り着いてから、恐る恐る電話に出ると、それはカーティスからだった。「君か?」。「私よ」。「ごめんよ」。「ううん、ごめんなさい。みんな私のせい」。「何も言うな。盗聴されてるかもしれん」。そこまで言うと、カーティスは、盗聴しているかもしれない相手に向かって、「もし、そこにいるんなら、覚えとけ。お前には、何も見つけられん」と言った後で、もう一度、ジョリンに、「もう行かないと」と告げる(2枚目の写真)。「奴らは、君が誰か知らない。この電話をかけたのは、君と、君の特別な人が安全だって 言いたかったからだ」。その言葉を聞いたジョリンは、あまりの好意に涙が止まらない(3枚目の写真)。「どうもありがとう、カーティス。ご恩は決して忘れないわ〔I can never repay you〕〔リンダがワースト・キャラなら、カーティスはベスト・キャラ〕
  
  
  

その夜、ジョリンは、ジョナサンと自分にヒッピーのようなメイクをし(1枚目の写真)、激しい音楽を大音量でかけ、2人で熱狂的に踊る(2枚目の写真)。そして、ジョナサンを躍らせておき、そっと家を抜け出すと〔時計が一瞬映るが、時間は8時56分〕、夜の9時と約束しておいた父が トラクターでやって来る。ジョリンは、豚のウィウィーを食べ物で誘き出すとトラクターまで連れて行き、父と一緒になって トラクターの台車に豚を乗せる。ジョリンは、家から持って来た拳銃で豚を撃ち殺す(3枚目の写真、矢印)〔そのための大音量の音楽〕
  
  
  

翌朝。この家での最後の朝食。母はジョナサンにブラウニーを食べさせる(1枚目の写真)〔残っていたら、大麻の蒸気吸入などさせなかっただろうから、カーティスの大麻を使って新たに作ったに違いない〕。家を出て、郵便受けに入っていた手紙を取ると、夫からなので、気になって途中で読んでみる(2枚目の写真)。「ジョー。俺は落ちるところまで落ちた。いつもそうだったが、気付かなかった。苦労をかけて済まない。すべて俺のせいだ。家族が欲しい。家族が必要だ。今、家に向かってる。俺を受け入れてくれるなら、君とジョナサンとやり直したい。約束する。ひょっとしたら、この手紙より 俺自身の方が早く着いてるかもしれんな。愛してる。ディヴィッド」。ディヴィッドが運転するおんぼろピックアップトラックが、故郷に向かって疾走する(3枚目の写真)。
  
  
  

しかし、ジョリンは手紙など一顧だにしなかった。町の質屋〔買取店かも?〕に行くと、ギター、スマホ、拳銃、結婚指輪を売り(1枚目の写真)、20ドル札を10枚ほど渡される〔画像から読み取れる範囲では〕。ジョリンは、質屋から渡された売買契約書を、ディヴィッドから届いた封筒に入れ、宛先の住所は変えずに宛名をディヴィッドにし、「1ドルあげたら、切手を貼って投函してくれる?」と訊き、「いいよ」と言われたので、「ありがとう」。次にジョリンが行ったのが、バスターミナル。切符売り場で、ビーチまでの片道運賃を訊く(2枚目の写真)〔戻ってくる気はない〕。「大人1人と子供1人で、マイアミまで367.50ドル、サンディエゴまで409.50ドル〔マイアミまでの直線距離は1765キロ、サンディエゴまでの直線距離は1887キロ〕。さっきもらったお金では、とても足りない。そこで、「もっと安いのないの?」と訊く。「それなら、ガルベストンね」〔テキサス州内なので、直線距離で277キロ〕。「いくら?」。「ガルベストンなら90.25ドル」。「完璧ね」。売り場の女性は、25セント割り引いてくれる。そして、バスは出て行く(3枚目の写真)。
  
  
  

その後の映像は、①バスの中での2人、②疾走するディヴィッド、③母とジョナサンが “昔プールだった場所” で遊んでいた頃の映像が重なり合う。バスの窓から外を眺めるジョナサンの映像(1枚目の写真)の際に流れる独白は、「少年の家族は、毎日タコを食べて幸せに暮らしました」。その後は、ジョナサンの目が見たであろう、ピンボケのユリカモメ(2枚目の写真)、そして、三叉槍を手にガルベストンの砂浜を走るジョナサン(3枚目の写真)。映画は、ここで終わるいが、果たしてこの2人はどうなるのだろう? まだテキサス州にいるので大麻を使った治療薬は処方してもらえない。残金は100ドルくらい。どうやって暮らしていけるのか全く分からない。因みに、ジョリンが夫を見限ったのは、①無収入の夫ではCPSの判断は変わらず、憎たらしい夫の母にジョナサンを取られる、②夫にとっては実の母なので、それに対して反対しないし、逆に、両親と一緒にタダで暮らす道を選ぶ、③そうなると、ジョリンの居場所がなくなる、と考えたからであろう。
  
  
  

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